spect1975のブログ

門前薬局で長期勤務歴のある薬剤師です。主には皮膚科関連に強みを持っています

風邪の引きはじめはやっぱり葛根湯?漢方のホントウがわかる素朴なギモン2

No.2 やっぱり風邪の引き始めだと、漢方薬では葛根湯が一番効くの?

 

結論:葛根湯が効果的な場合が多いことは間違いないですが、自汗がある人や基礎体力が低い人には桂枝湯など別の漢方薬が適している場合もあり、自分で最適な薬を選ぶことが重要です。

 

よくテレビのCMなどで「風邪の引き始めには葛根湯。よく効きます!」というフレーズを耳にします。家庭に常備している方も少なくありません。しかし、風邪を引いた際に葛根湯を無闇に飲むことが本当に正しいのでしょうか?

 

まず、葛根湯が効果を発揮するメカニズムについて考えてみましょう。

風邪のウイルス感染が起こると、体内でさまざまな生理活性物質であるサイトカインが産生され、これが過剰な発熱や炎症反応を引き起こします。

 

葛根湯が効果を示す主な成分には、桂皮と麻黄があります。桂皮は一般的にシナモンとして知られており、この成分が体内で代謝されると、発熱の原因となるサイトカインの調整を行い、さらに免疫を増強するサイトカインを誘導するとされています。これにより、ウイルスの増殖を防ぎます。

 

葛根湯や麻黄湯に含まれる桂皮や麻黄は、風邪の初期にウイルスの増殖を抑え、免疫反応を高めることでウイルスを抑制する効果を示します。しかしここで重要なのは、どのような体質の人がこの効果を得やすいかということです。

 

桂皮や麻黄が多く入っている葛根湯や麻黄湯は、感冒初期にはウイルスの増殖を抑え、次には生体の免疫反応を高めることで、ウイルスを抑える効果を示します。ここで重要なことは、どのような体質の方がその反応が起こりやすいかということです

 

実際には、普段は元気があり脈の触れが非常によく、基礎代謝の高い方に、この反応が起こりやすいと言われています。逆に言うと、通常はあまり脈が触れず基礎代謝の低い人は、この漢方薬を服用しても効果が得られにくいと言うことになります。

 

一般的に、元気があり基礎代謝が高い人ほど、この効果が現れやすいとされています。逆に、基礎代謝が低く、通常の脈拍が少ない人は、この漢方薬を服用しても効果が得られにくい可能性があります。そのため、自汗がある人や基礎体力が低い人には、葛根湯ではなく桂枝湯など別の漢方薬が適している場合もあります。以下体質や状態によって、選ぶべき漢方薬の例を挙げていくので参考にしてください。

 

風邪の初期に用いる漢方薬の代表例5つ。

※麻黄・桂皮の構成比が強い漢方薬ほど、抗ウイルス作用は高いです。

よって、抗ウイルス効果:麻黄湯>葛根湯>小青竜湯>その他となります。

 

(ⅰ)体力がある程度ある方

①葛根湯(葛根・芍薬麻黄桂皮・大棗・甘草・生姜)

特徴:麻黄湯ほどの抗ウイルス作用はないが、広く利用されます。

適応:38℃前後の発熱で、やや筋肉のこわばりが伴う方。

   悪寒があり、自発的な発汗がない方。

 

麻黄湯(構成生薬:麻黄桂皮・杏仁・甘草)

特徴:強力な抗ウイルス作用があり、インフルエンザなどにも使用されます。

適応:38.5℃を超え、強い咽頭痛や関節痛がある方。

   強い悪寒があり、自発的な発汗がない方。

 

③小青竜湯(麻黄桂皮・乾姜・甘草・細辛・半夏・芍薬・五味子)

特徴:水毒に対する作用があり、水が溜まっている状態に対して効果が高いです。

適応:38.5℃以下の熱で、通常の体力があり脈がある方。

   鼻水や痰を伴い、自発的な発汗がある方。

 

(ⅱ)体力が元々ない方、抵抗力が落ちている場合

④桂枝湯(桂皮芍薬・生姜・大棗・甘草)

特徴:葛根湯から麻黄(と葛根)を除いたもので、抵抗力が落ちている場合に有効。

適応:体力虚弱な方。

   微熱や頭痛、悪寒を伴い、自発的な発汗のある方。

 

(ⅲ)体力が元々低く、冷えがかなり強い場合

⑤麻黄附子細辛湯(麻黄・附子・細辛)

特徴:体力がなく自発的に発熱を促す桂皮でなく、附子や細辛で冷えを改善します。

適応:体温が38.5℃未満で、冷えが強く体力がない高齢者の方。

   鼻が詰まっており、自発的な発汗がある方。

 

以上が風邪初期に効果的な漢方薬の代表例でした。

 

また重要な点としては、適応から外れた場合は、その漢方薬の服用を中止すべきであるということです。例えば、葛根湯や麻黄湯服用時に何もしなくても汗をかき始めた、小青竜湯服用時に強い冷えや鼻閉を生じるようになったなどです。特に漢方薬は、その症例に適していないものを続けて服用すると、比較的有害な事象が起こりやすくなってしまいます。本来はあらかじめ複数の薬を用意しておき、都度のその症状に合ったものを選ぶのがベストですが、症状が変わり適した薬がない場合は、あとは布団の中でぐっすり休むのが良いでしょう。

いかがでしたか?同じ風邪に対する漢方薬でも、症状に応じて適したものを選ぶことが重要であることが分かったでしょう。この記事を読んで、これから風邪の時に自分にとって一番合っている漢方薬がなんであるのか、自分自身で判断できるようになったら幸いです。また次回以降に、風邪が長引いた時に服用すべき漢方薬について書こうかなと思っています。ではまたお会いしましょう。