spect1975のブログ

門前薬局で長期勤務歴のある薬剤師です。主には皮膚科関連に強みを持っています

帯状疱疹のホントウが分かる素朴なギモン

No4 帯状疱疹ってうつるものなの?痛みが強い皮膚病らしいけど、そもそもどういうもの?

現代において、帯状疱疹の患者数が増加しているという話題が広がっています。私自身、皮膚科門前の薬局で長い勤務経験がありますが、過去と比較して明らかに患者数が増えていると感じています。特に気づくのが遅れがちで、患者さんが来院される時点で症状が進行していることが多いように思われます。いつ起こるかも分からない帯状疱疹について、正しい知識を持って対処することが重要です。

目次

1. 帯状疱疹とは?なぜビリビリとした痛みが現れる?

2. 帯状疱疹の見分け方は?

3.実際に帯状疱疹の患者数は増加しているの?

4. 増加要因は何?コロナワクチンが影響している?)

5. できる限り早く薬を飲むことが重要。早めの受診をするべきだ!

6. 帯状疱疹の痛みはとても苦しい?

7. 帯状疱疹って痛み以外にも合併症があるの?)

8. 帯状疱疹がうつるのか心配なんだけど?

9. ワクチンで予防できるの?

10. 帯状疱疹についてのまとめ

1. 帯状疱疹とは?なぜビリビリとした痛みが現れる?

帯状疱疹は、主に水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)による感染が原因です。VZVは、水ぼうそうとして幼少期に感染することがほとんどで、その後症状が消失しても、ウイルスは神経節内に潜伏し続けます。成人になり免疫力が低下したりストレスなどの要因で再び動き出し、神経を通って体表面に到達することで、帯状疱疹が引き起こされます。帯状疱疹の特徴的なビリビリとした神経痛は、感染した神経によって引き起こされます。また、症状が治まったとしても、ウイルスは完全に消失せず、一部の人では再発する可能性があるため、体力をつけて予防に努めるようにしましょう。

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2. 帯状疱疹の見分けかたは?

帯状疱疹の特徴的な症状には、最初に神経痛のような痛みが現れ、その後、小さな水疱を伴った赤みが広がっていくことが挙げられます。また、最も顕著な特徴は、症状が体の左右どちらか片側にのみ現れることです。しかし、注意が必要なのは、痛みと発疹の順番が逆であったり、どちらかが全く現れない場合があることです。

さらに、皮膚症状が現れる部位と痛みを感じる部位が一致しない場合もあります。これが皮膚科への受診を遅らせる主な原因です。例えば、帯状疱疹が体に現れた場合には、頭痛や腰痛など、関連のない部位の痛みが引き起こされることがあります。したがって、普段と異なる痛みを感じた場合は、早めにクリニックを受診することをお勧めします。

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3. 実際に帯状疱疹の患者数は増加しているの?

医師や薬剤師が増加を感じるだけでなく、統計的なデータもこの増加を裏付けています。1997年からの20年間の調査によれば、帯状疱疹年間発症数は1.8倍も増加しているとの結果が出ています。この数字は驚くべきものであり、私自身が感じていた以上の増加率です。

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4. 増加要因は何?コロナワクチンが影響している?

増加の主な理由として、2014年に水痘ワクチンの定期接種が始まったことが挙げられます。この接種開始以降、以下のような影響が見られます。

  1. 水痘の流行が激減し、それに伴い大人が水痘ウイルスに接触する機会が減少。
  2. ブースター効果の低下。ブースター効果とは、ウイルスに対する再感染時の免疫反応のことですが、この効果が十分に発揮されなくなっています。

さらに、高齢者の人口増加帯状疱疹の増加に寄与しています。免疫力が低下すると帯状疱疹の発症リスクが高まるため、高齢者の罹患率も増加しています。

コロナワクチンの影響については、一部で議論されています。予防接種によって産生されるスパイクタンパク質が、帯状疱疹を引き起こす原因とされる考えもあるようです。ただし、この見解についてはまだ疑問が残るところです。実際にそのような事例が報告されていますが、十分なサンプル数や調査期間が確保されていないため、、極端な意見に惑わされることなく、客観的な情報を選択することが重要です。

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5. できる限り早く薬を飲むことが重要。早めの受診をするべきだ!

それでは、病院で処方される内服薬について解説します。帯状疱疹に関しては、内服薬中心の治療を行います。

現在では主に、バラシクロビル(バルトレックス)、ファムシクロビル(ファムビル)、アメナリーフの3種類が処方されます。

3種類全てに共通する特徴は以下の通りです

  • ウイルスの増殖を抑える作用がありますが、体内に既に存在しているウイルスを排除することはできません。したがって、発症後できる限り早く薬を飲む必要があります。
  • 理想は発症直後の服用ですが、発症後3日ほど経過しても、ある程度は薬の効果は期待できるので、医師に処方された薬は確実に服用しましょう。
  • 錠剤は比較的大きく、通常の用量は1回2錠となっており、飲みにくいと感じる方もいます。しかし、粉砕することで摂取しやすくなります(ただし、粉砕した場合には苦味があります)

バラシクロビルとファムシクロビルの特徴は以下の通りです。

  • これらの薬は主に腎臓で排泄されるため、腎機能が低下している方や高齢者などは投与量の調節が必要です。
  • 薬剤が尿細管で結晶化し急性腎不全を起こす恐れがあるため、それを予防するように水分摂取が推奨されます。また、これらの薬は脳に移行しやすいため、眠気や頭痛などの副作用が発生することがあります。
  • 他の薬との飲み合わせの問題が少ないため、他の多くの薬を服用している方でも比較的安心して使用できます。

アメナリーフの特徴は以下の通りです。

  • 脂溶性の薬より吸収を向上させるために、できる限り食後服用を守りましょう。
  • この薬は肝臓で代謝されるため、腎機能が低下している高齢者でも比較的安全に使用できます。また肝代謝CYP3Aという酵素で行われており、この酵素代謝される薬の種類が多いため、互いに影響しないよう他の薬剤との飲み合わせの注意が必要になります。
  • 1日1回のみの投与で、忘れリスクが低いです。

※忘れた場合は、よほど次の服用時間に近くなければ、少しでも食事をとった後にすぐ服用しましょう。

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6. 帯状疱疹の痛みはとても苦しい?

合併症の代表である帯状疱疹後神経痛(PHN)は、帯状疱疹から回復した後も、患者に長期間にわたる痛みをもたらす可能性があります。痛みの程度は個人によって異なり、時には眠ることさえままならないほどの激しいものです。急性期の痛みの程度がPHNへの移行に影響を与えるため、急性期の痛みを速やかに緩和することが重要です。

●急性期の痛みの管理

急性期の帯状疱疹に伴う痛みを管理するために、抗ウイルス剤とともに一般的に以下のような鎮痛剤が処方されます。

  1. アセトアミノフェン製剤(カロナールなど):急性期の痛みを和らげるためによく使用されます。作用が緩和であるため万人に使いやすい鎮痛薬です。
  2. ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):ロキソニンなどが代表的ですが、特に腎排泄の抗ウイルス薬(バラシクロビル、ファムシクロビル)を飲んでいる場合は、腎機能が低下している方や高齢者では、併用の際は特に注意が必要です。

また、急性期の痛みを緩和するために神経ブロックが行われることもあります。

帯状疱疹後神経痛(PHN)の治療

PHNに対する従来の鎮痛剤が効果を発揮しづらい場合、以下のような薬物治療が行われます。全ての薬に共通して、神経障害に対する痛みに加えしびれも抑えます。ただし副作用として、眠気ふらつきなどが出やすいことが知られています。

  1. 三環系抗うつ薬(アミトリプチリン):安価で長期でも経済的負担が少ないことが利点。ただし、抗コリン作用があるため、前立腺肥大症や緑内障を持つ方は注意が必要でです。
  2. α2δリガンド(プレガバリン、ガバペンチン)睡眠の質や抑うつ不安も改善します。弊害として、体重増加する恐れがあり、腎機能が低下している高齢者では減量が必要です。またプレガバリンの眠気やふらつきは、他薬より高確率で出やすいためより注意です。
  3. SNRI(デュロキセチン):三環系抗うつ薬よりも安全性が高く、心疾患を持つ患者にも適しています。

PHNとなれば皮膚科では対応しにくいため、ペインクリニックに紹介状を書いてもらい通うことになります。早めに対応し、痛みの長期悪化を防いでいけるようにしましょう。

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7. 帯状疱疹って痛み以外にも合併症があるの?

合併症としては、上記したPHNが特に有名ですが、まだまだ気をつけなければいけないものがあります。その中でも代表的なものをいくつか挙げておきます。

  1. ラムゼイ・ハント症候群: VZVによって顔面神経麻痺を主体とした疾患です。加えて、周囲の脳神経にも波及して、耳痛、難聴、めまいなどが起こることもあります。
  2. 帯状疱疹脳症: VZVが顔面や頭部の神経に感染することで、脳に影響をおよぼし、主症状としては、発熱、頭痛、嘔吐、意識障害などがあります。発生頻度としては、1%以下と低いですが、罹患すると致死率が10%程度であるため要注意です。
  3. アシクロビル脳症:抗ウイルス薬であるアシクロビル、またはそのプロドラッグであるバラシクロビルにより、主に腎機能低下患者で誘発されやすい障害です。意識障害、幻覚、錯乱など多彩な症状が起こりうるのが特徴です。

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8. 帯状疱疹がうつるのか心配なんだけど?

ウイルスが原因であるため、家族への伝染が心配であると思います。基本的には帯状疱疹はうつらないため、日常生活の中では問題することはありません。

ただし、まだ水ぼうそうにかかったことのない方に、患部が直接触れたりすると、水ぼうそうとしてうつってしまう恐れがあります。そのため、念のために直接肌を接触したり、特に水疱になっている部位はウイルスが密集しているため、患部をガーゼなどで覆っておいた方が良いででしょう。

口唇ヘルペス性器ヘルペスを含む単純ヘルペスは、帯状疱疹と症状が類似していますが、実際には異なる疾患です。これらの疾患の原因ウイルスは帯状疱疹とは異なり、単純ヘルペスウイルス(HSV)として知られており、感染力が非常に強いです。よって、口唇ヘルペスなどの場合、他者との接触やタオルなどを介した接触をできるだけ避けることが重要です。

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9. ワクチンで予防できるの?

現在、帯状疱疹に対するワクチンは、比較的最近発売された、シングリックスと呼ばれる不活化ワクチンと、以前からあるビケンと呼ばれる生ワクチンの2種類があります。

発症率が急激に高くなる50歳代からの接種が推奨されています。各ワクチンの長所や短所に見合った方を選択すると良いでしょう。

以下比較表を参考にしてください。

 

 

ビケン

シングリックス

ワクチン種類

生ワクチン

不活化ワクチン

接種回数

1回(皮下注)

2回(筋注)

予防効果

50%強

90%以上

疼痛予防効果

65%程度

85%以上

効果持続期間

5年程度

9年程度

主な副反応

接種部位の赤み

接触部位の発赤、全身倦怠感

費用(※)

5,000〜10,000円/回

2万〜2万5千円/回

長所

1回で済み、かつ安い

副反応が非常に出にくい

予防効果が高く持続期間長い

免疫低下してる方にも接種可

短所

予防効果がやや低い

妊婦や免疫低下者に不向き

かなり強い痛みがある

2回の接種が必要かつ高価

※費用は病院や診療所によって異なります。特にシングリックスは高価ですが、地方によっては補助金が出る地域もあります。「帯状疱疹ワクチン接種費用助成自治体一覧」で検索すれば一覧で出てくるので、自分の自治体を確認しておくと良いでしょう。

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10. 帯状疱疹についてのまとめ!

帯状疱疹は免疫力、体力低下したときに帯状疱疹ウイルスによって発症する

帯状疱疹はうつらないが、口唇ヘルペスなどの単純ヘルペスはうつりやすい

●薬は主に3種類の内服薬があり、5〜7日間ほどの服用が必要。外用はほぼ無効

●薬の効果発現、その後の疼痛予防と2つの観点から早期服用が重要

●急性期の痛みは合併症のPHNの移行に影響するため、今の疼痛の最大限の抑制が推奨

●ワクチンには発症率が高い50歳以上が推奨され、10年近く予防できるものもある

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いかがだったでしょうか。帯状疱疹は、その痛みや合併症から、患者やその家族にとって重大な懸念となることがありますが、正しい知識と適切な対処法によって管理することができます。早期の診断と適切な治療は、合併症のリスクを最小限に抑えるために不可欠です。このブログにより重症化しなくて助かった、ということになっていただければとても幸いです。