No.11-1 頭痛シリーズ①
頭痛は国内でも数人に1人が持病としているに関わらず、その正しい対処法を知っている人はどのくらいいるでしょうか?市販の痛み止めを飲んでおけばそのうち治るだろう、ではいけません。頭痛のタイプにより効く薬は異なり、効かない薬を飲み過ぎて頭痛を悪化させることもあります。ここでは、一般的な頭痛のタイプであれば、予防療法から治療法まで全て網羅してあります。それでは一緒に学んでいきましょう!
目次(Part.1は1〜4の頭痛の予防療法までの記載です)
- 頭痛にはどのような種類があるの?
⑴一次性頭痛
a. 緊張型頭痛
b. 片頭痛
c. 群発頭痛
(2)二次性頭痛 - 一次性頭痛と二次性頭痛はどう判別されるの?
- 小児や思春期に起こる頭痛はどういうものなの?
⑴小児および思春期の片頭痛
⑵小児および思春期の慢性連日性頭痛
⑶小児および思春期の二次性頭痛 - 頭痛の予防療法というのはどう言うものなの?
(1)緊張型頭痛の予防療法
(2)片頭痛の予防療法
(3)群発頭痛の予防療法 - 頭痛の各タイプごとに有効な治療法を教えて!
(1)緊張型頭痛の急性期治療
(2)片頭痛の急性期治療
(3)群発頭痛の急性期治療 - 妊娠・授乳中の治療はどうしたら良いの?
- 薬剤に頼らない治療法はあるの?
- 何かおすすめの漢方薬はある?
- 頭痛のまとめ!!
1. 頭痛にはどのような種類があるの?
一言頭痛といっても様々なタイプがあり、それを知ることが対処をしていく上で大きな一歩となります。詳細に分類すると何と300以上にも分けられるようですが、ここでは、主要なものだけピックアップしていきたいと思います。
まず、大きく一次性と二次性の2つに分類ができます。頭痛の疾患要因があるかないかで分けられ、ないものを一次性頭痛、ないものを二次性頭痛と定義されています。
⑴一次性頭痛
そのものが病気であり、他に明確な原因や疾患がなく慢性的に続くタイプです。このタイプが頭痛の9割を占めており、その中でも「緊張型頭痛」、「片頭痛」、「群発頭痛」が頻度の高さから三大慢性頭痛と呼ばれています。
a. 緊張型頭痛
【有病率】三大慢性頭痛の中でも最多で、20%強とも言われています。
【前兆】前触れもなく、突然発症します。
【症状】一般的には両側に症状が起き、頭がベルトで締め付けられるような感じが数十分から数日にかけて持続します。強さは軽度から中程度であり、悪心を伴わず光や音に反応するのが特徴です。
【悪化・誘発要因】首や頭周辺の筋肉にある血管が収縮することで痛みが起こります。具体的には、同じ姿勢を長時間取り続けたり、運動不足でそれが起こりやすくなります。また、目の疲労やさまざまなストレスなども一要因です
【病型】緊張型はその頻度により、反復性(月に15回未満)と慢性(3ヶ月を超え月平均15回以上)に、さらに、反復性を稀発型と頻発型に細分類します。細かい分類となりますが、この分類は治療を行う上でとても重要な意味をなしてきます。
(ⅰ)反復性緊張型頭痛:頭痛の頻度が月に15回未満の緊張型頭痛です。
・稀発反復性緊張型頭痛:頻度が月1回未満で、通常治療は不要となります。
・頻発反復性緊張型頭痛:頻度が月1〜14回の緊張型頭痛です。
(ⅱ)慢性緊張型頭痛:数時間から数日間、さらには絶え間なく続き、少しの悪心や光・音に過敏に反応します。慢性緊張型頭痛は、高度な障害を引き起こす深刻な疾患です。
b. 片頭痛
【有病率】比較的頻度の高いタイプで、8.4%ほどであり緊張型に次いで多いです。
【前兆】閃輝暗点という目の前でキラキラ光る現象や見えにくさがあり、これが最も一般的です。他にも、体の一部にピリピリ感や話すのが難しくなることがあります。時には、倦怠感やめまいも伴います。これらの症状は通常、5分〜60分続き、その後頭痛が始まります。頭痛が来る前に、予感や気分の変化、眠気、疲れ、集中力の低下、首の凝りなどを感じることがありますが、これは「予兆」として区別されます。
【症状】一般的には中程度〜重度であり、頭部の片側に脈打つような痛みが特徴で、4〜72時間も続くことがあります。ただし、名前の由来とは異なり、両側部に痛みが生じることも少なくありません。吐き気なども伴い、日常的動作で悪化しやすいため、寝込んでしまい学業や仕事にも多大な影響を及ぼすほどにもなります。
【悪化・誘発要因】一概に下記であるとはいえず、かなり各個人ばらつきがあります。
・精神的因子:ストレス、疲れ、睡眠の過不足
・内因性因子:月経周期・環境因子:天候の変化、温度差、におい、音や光
・ライフスタイル因子:運動、欠食、性的行動、旅行
・食事性因子:空腹、脱水、アルコール、特定の食品
c. 群発頭痛
【特徴】夜間や睡眠中に起こりやすく、アレルギー様症状(目の充血、鼻汁や鼻閉、眼瞼下垂など)が伴うことが多いです。また、激しい頭痛が長く続くためQOL(生活の質)にも一番影響します。
【有病率】男性の有病率が女性の3〜7倍と多く、主な発症年齢は20〜40代です。確定診断までかなりの時間を要します。
【前兆】緊張型頭痛同様に前兆がなく、突然強い痛みが来ます。
【症状】眼周囲から前頭部や側頭部にかけて、激しい頭痛が数週間から数ヶ月続きます。
【悪化因子】アルコール飲料やヒスタミン、ニトログリセリン製剤で誘発されます。
⑵二次性頭痛:他の病気が原因で新しく起こる頭痛のタイプに分類されます。このタイプの頭痛は、時に生命にかかわる疾患が原因となっている場合があり、十分に注意が必要です。新規の頭痛が発生した場合は当然ですが、以前から存在する一時性頭痛が悪化した場合でも、一次性と二次性両方のタイプが存在することがあるため、一度診断を受けたからといって安心できません。
二次性頭痛の原因の疾患については、外傷、脳卒中(脳梗塞、くも膜下出血)、感染症、精神疾患、目・耳・鼻・歯などの障害などが挙げられます。
⑶薬物乱用頭痛(MOH)
【特徴】薬剤治療を正しく行なっている限りは、ほとんど予防ができます。ただし、改善後1年以内に3割ほどの方が再発するため、治療後のケアも重要になりなす。
【有病率】年間有病率は1〜2%であり、中年層に多く女性が70%を占めます。
【悪化要因】痛みに対する不安から、痛みがないのに薬を早めに飲んだりすることで、脳が痛みに関して過敏になり、逆に痛みが悪化して薬の効果が薄まってしまいます。
2. 一次性頭痛と二次性頭痛はどう判別されるの?
基本的に長期間継続した慢性化頭痛は一次性と判別しうるものですが、以下のような場合には二次性頭痛を疑い積極的に受診する必要があると推奨されています。
- 発熱を含む全身症状
- 新生物(腫瘍)の既往
- 意識レベルの低下を含めた神経脱落症状(※1)または機能不全
- 急または突然に発症する頭痛
- 50歳以降に発症する頭痛
- 頭痛のパターンの変化または最近発症した新しい頭痛
- 姿勢によって変化うする頭痛
- くしゃみ、咳、または運動により誘発される頭痛
- 乳頭浮腫(※2)
- 痛みや症状が進行する頭痛
- 妊娠中または産褥期
- 自律神経症状を伴う眼痛
- 外傷後に発症した頭痛
- HIVなどの免疫系病態を有する患者
- 鎮痛薬の使用過多もしくは新規薬剤による頭痛
(※1)脳の特定の部位が損傷したときに現れる症状。脳卒中(脳梗塞や脳出血)の場合にも現れ、発症した部位により症状が異なります。
(※2)目の奥にある視神経の出口である乳頭が外部との圧力差などで腫れてしまい、物が見えにくくなったり霞んだりする状態です。
3. 小児や思春期に起こる頭痛はどういうものなの?
小児や思春期の頭痛は、一般的には成人と同様に辛いものですが、その特徴や生態にはいくつか異なる点があります。また、特に小児はその痛みを上手く表現できず、分かりづらいことも特徴です。男女の有病率差は、幼少時は男児が多く、歳を取るにつれて中学生以上になると女子の方が多くなっていきます。
⑴小児および思春期の片頭痛
小児の片頭痛は、前兆の有無によって異なるタイプがあります。小児の場合、痛みを言葉で表現することが難しいため、観察による判断が必要です。
【特徴】前兆のないタイプの片頭痛では、持続時間が約2時間からと比較的短いです。特徴としては、成人よりも両側性であることが多く、部位は後頭部でなく前頭や側頭部がほとんどです。また、睡眠によって痛みが軽減する傾向があり、翌日には登校できるケースも多くあります。
【前兆】周囲がぼやける閃輝暗点や、チクチク感などの感覚的な変化がみられることがあります。
【遺伝】片頭痛そのものは遺伝しないものの、類似した生活習慣や環境が発症の要因に関与すること(家族集積性)があり、家族内で多く発現することはあります。
⑵小児および思春期の慢性連日性頭痛
このタイプの頭痛は、社会的要因が関与しやすく、治療が難しい特徴を持ちます。
【特徴】頭痛が1日4時間以上持続し、月の半分以上の期間、3ヶ月以上続きます。不登校などの社会生活へ大きく影響します。
【判別】心理的要因が関与する場合もあり、保健室への通学回数が多い場合には注意が必要です。
【対応】仮病と判断せず、本人の問題を聞き出すことが重要です。問題解決によって改善することもあります。
【悪化要因】小学校低学年では月3〜4回であった頭痛の頻度が、ある時期から強度が上がり月の半分以上を占めるようになることもあります。これは、受験をはじめとする学業の問題、家族や友人などの人間関係の大きな変化によります。学業に大きな影響が出て、急激な成績の低下は頭痛の原因のこともあり得るほどです。
⑶小児や思春期の二次性頭痛
小児や思春期の二次性頭痛も有病率自体は低いです。要因が感染症であるものがかなりを占め、次いで外傷によるもの、あとは特別な疾患、視力障害と続きます。
感染症の要因の多くは、感冒などのウイルス性、次いで副鼻腔炎となっています。ほんのわずか割合ですが、脳腫瘍や脳血管障害なども原疾患としてあります。
4.頭痛の予防療法とはどういうものなの?
ここでは「予防」についてではなく、専門的観点から「予防療法」について語ろうと思います。ここで言う予防療法は、頭痛の発作回数を減らしたり、急性期における薬の効き目を良くすることで、治療に近い予防法ということになります。
⑴ 緊張型頭痛の予防療法
緊張型頭痛の予防療法は、薬物治療と非薬物治療に大別されます。
a.薬物治療
反復性緊張型頭痛では、脳内の痛みを感じるシステムの改善に有効な抗うつ薬、特に三環系抗うつ薬であるアミトリプチリンが最も推奨されています。
慢性緊張型頭痛の場合、鎮痛薬の使いすぎに注意し、適切な抗うつ薬による治療など予防療法への切り替えが推奨されます。特にストレスが原因で頭痛が悪化している場合、SNRIなど他の抗うつ薬の使用も検討されます。予防としてはアミトリプチリンが最も有効とされています。
b.非薬物療法
非薬物治療には、バイオフィードバック療法、認知行動療法、リラクセーション、理学療法などがあります。詳しくは後述(Part.2の7. 薬物に頼らない治療法はあるの?)を参照してください。
⑵ 片頭痛の予防療法
片頭痛発作が月に2回以上か、日常生活に支障をきたす強度の発作が月に3日以上ある方に予防療法が推奨されています。
また、片頭痛予防の主な目的は、反復性の頭痛から慢性片頭痛への進行抑制も含まれます。
a.薬物療法
・抗CGRP(※3)抗体・抗CGRP受容体抗体:エムガルティ(ガルカネズマブ)、
これらは比較的最近新たに加えられた予防療法で、海外ではすでに片頭痛急性期治療薬として内服薬が販売されています。作用からして血管収縮がないため、トリプタン製剤より安全ではないかと言われています。また、以下紹介する今までの片頭痛予防治療薬では効果がなかった場合においても、有効性が確認されています。ただし、治療費が相当高くなることはネックです。
・抗てんかん薬:デパケン(バルプロ酸)、トピナ(トピラマート)、ガバペン(ガバペンチン)など
月2回以上発作のある方に対し、発作頻度を50%以上も減少させ、かつ頭痛強度を減少させたり、発作時間も短くしたと言う報告があります。
・抗うつ薬:トリプタノール(アミトリプチリン)本剤は古くから使用されており、抗てんかん薬と同等の有効性が示されています。他の三環系抗うつ薬や、SSRI、SNRIなどではエビデンスとしては確立されていません。
・β遮断薬:インデラル(プロプラノロール)、セロケン(メトプロロール)など
通常は高血圧や不整脈の治療薬で、第一選択薬の一つです。頭痛持ちの方が高血圧など合併している場合、双方を治療できるという利点もあります。ただし、喘息の方は悪化の可能性があるため使用できないものもあり、喘息患者はβ1選択性をもつメトプロロールを使用します。
・Ca拮抗薬:ミグシス(ロメリジン)日本では20年以上も使用され実績もあり、特に前兆のある片頭痛にはよく使われかつ安価なこともあり、予防薬として勧められます。
・ACE阻害薬:ロンゲス(リシンプリル)、ARB:ブロプレス(カンデサルタン)など
通常は降圧剤として使われている薬であり、片頭痛と高血圧の両方を併せ持つ方も多いため、より片頭痛予防に有用であると言えます。ただし、これらは保険適応はありません。
(※3):CGRPとは片頭痛の原因とされているタンパク質であり、カルシトニン遺伝子関連ペプチドの略称。片頭痛の原因は未だ解明されておらず、その中でも有力な説の一つが「三叉神経血管説」です。この説では、ストレスなどにより三叉神経が刺激されることでCGRPが放出され、血管が過剰に拡張し周囲に炎症や痛みが起こるとされています。
b.非薬物療法
マグネシウムやコエンザイムQ10、ビタミンB2 などがあります。詳しくは後述Part2の7.薬物に頼らない治療法はあるの?を参照してください。
⑶群発性頭痛の予防療法
・Ca拮抗薬:ベラパミルは本来は不整脈など心臓の薬ですが、保険診療での適応外処方が認められています。また、ロメリジンもワソランに次いで予防効果が期待されます。
・ステロイド:プレドニゾロンなどを最初に大量投与し、徐々に減らしていく漸減療法が有効です。ワソランとの併用により、ワソラン単独よりも発作回数を減らせたと言う報告もあります。
・エルゴタミン製剤:寝る前の短期間での服用が有効なこともあります。
・炭酸リチウム:ベラパミルが効かなかった時に、慢性群発頭痛に対して使用できます。ただし本剤は中毒が出やすいため、少量から始め血中濃度を都度測定を受けることを勧められます。
Part.2へ続く